生後2か月の子犬を見学した帰り道、契約書にサインを求められて即決してしまった。そんな体験談をSNSでよく見かけます。悪いことではないように思えますが、実はここに最初の誤解が潜んでいます。子犬や子猫を迎えるまでの流れには、見えにくい手順がいくつも挟まっています。順番に追っていきます。
「即決」を求められたら、それは良いサインではありません
見学に行ったその場で契約を迫られたら、一度持ち帰って考えるべきです。急かす販売者は、個体の状態や契約内容を十分に説明しないまま話を進めようとすることがあるからです。
本来、生体の販売では現状の説明と書面の交付が必要とされています。健康状態、ワクチン接種歴、親の情報などを確認する時間が本来あるはずです。それを省略して「今日決めないと他の人に取られますよ」と迫るのは、売る側の都合が先に立っている証拠です。
実際にあった例を挙げます。生後50日の子犬を見学し、その場で契約書を渡されてサインしたケースです。後になって、月齢的にはもう少し親兄弟と過ごしてから引き渡すべき時期だったと知り、後悔したという話がありました。月齢が若すぎる引き渡しは、社会性の発達に影響することがあると言われています。
ここは迷うところですが、保護団体からの譲渡では逆の流れになることもあります。トライアル期間を設け、数日から数週間の仮預かりを経てから正式に引き取る方式です。即決を避けるという考え方は同じでも、手順はブリーダーやペットショップとは異なります。契約の形は一つではないと知っておくと、流れに振り回されずに済みます。
ワクチンを打った直後に外デビューさせていませんか
ワクチンは1回打てば終わりではありません。複数回に分けて接種し、最終回から一定期間が経過するまでは、十分な免疫がついていないと考えられています。
仕組みはこうです。子犬や子猫は生まれてすぐ、母親から移行抗体というものを受け取ります。これが残っている間はワクチンを打っても抗体がうまくつかないことがあります。移行抗体は時間とともに減っていきますが、減るタイミングには個体差があります。そのため1回だけでなく、間隔を空けて複数回接種し、抗体がしっかりつくのを確認する流れになっています。
よくあるのが、生後2か月で1回目、3か月で2回目を終えた直後に、待ちきれずドッグランや公園デビューさせてしまう場面です。最終接種からまだ日が浅い状態で外の環境にさらすと、体調を崩すことがあります。動物病院では接種完了からしばらく時間を置くよう勧められることが多いはずです。
ただし、完全室内飼育を予定している猫の場合は、外デビューの話自体が当てはまりません。接種スケジュールの考え方そのものは変わりませんが、「いつから外に出せるか」という焦りは生まれにくいでしょう。飼育環境によって気にする点が変わる、という点は覚えておいて損はありません。
社会化期、教室任せでは終わらない
しつけ教室に通わせれば社会性が身につく、というのは半分正解で半分誤解です。社会化期と呼ばれる期間は限られていて、教室だけでカバーしきれるものではありません。
社会化期は、おおむね生後3週から12週前後とされる時期を指します。この間にさまざまな音、人、物、他の動物に触れておくと、成長してからの警戒心や過度な攻撃性が和らぎやすいと言われています。逆に、この時期に刺激が少ない環境で過ごすと、後から慣れさせようとしても時間がかかることがあります。
具体的に考えると、生後3か月を過ぎてから引き渡される子は、社会化期の大半をブリーダー宅やペットショップの店舗で過ごしていることになります。家庭に迎えてからは、できるだけ多様な音や人に触れさせる機会を意識的に作る必要が出てきます。教室に通い始めるのはそのあとの話です。
ここは個体差が大きいところで、社会化期を過ぎていても根気強く慣らしていくうちに落ち着く子もいます。臆病な性格だから一生このままとは限りません。ただ、時期を逃したからこそ焦って詰め込もうとすると、かえって怖がらせてしまうことがあります。急がず、少しずつというのが基本の考え方です。
引き渡し当日、たくさん構うのは逆効果
迎えた初日はできるだけ静かに過ごさせるべきです。歓迎したい気持ちはわかりますが、構いすぎは環境の変化によるストレスを強めてしまいます。
新しい家に来たばかりの子犬や子猫は、見慣れない匂い、音、人に囲まれて緊張状態が続いています。この状態で抱っこを繰り返したり、家族や友人を呼んで写真を撮り続けたりすると、緊張がほぐれる暇がありません。落ち着ける狭いスペースと水、トイレの場所だけを用意して、あとはそっとしておくほうが早く慣れることが多いです。
ある家庭では、迎えた初日に祖父母や友人を招いて代わる代わる抱っこをさせました。賑やかな一日の夜、子犬は下痢をしてしまい、翌日は元気がなくなってしまったそうです。環境の変化だけでも負担が大きいところに、人の出入りが重なったことが原因と考えられます。
もちろん、もともと物怖じしない性格の子もいます。初日から尻尾を振って家中を歩き回る子もいれば、ケージの奥から出てこない子もいます。性格を見ながら、構う量を調整するという柔軟さが必要です。マニュアル通りに「初日は絶対に構わない」と決めつける必要はありません。
懐くまでの時間、急かさないほうがうまくいく
数日で懐くと思っていると、現実とのギャップに戸惑うことになります。慣れるまでの期間は個体差が大きく、1週間で打ち解ける子もいれば、1か月以上かかる子もいます。
理由はいくつか重なっています。年齢、それまで過ごした環境、性格、迎えた家庭の生活リズムなどが関係します。子猫より子犬のほうが早く慣れる傾向がある、という話を聞くこともありますが、これもあくまで傾向であって、個体によって差が出ます。焦って無理に距離を詰めようとすると、警戒心を強めてしまうことがあります。
実際の例では、迎えて10日経ってもケージの奥から出てこなかった猫が、2週間を過ぎたあたりから自分のほうから近づいてくるようになったという話があります。飼い主が焦らず、名前を呼びながら食事を置くことだけを続けた結果だったそうです。無理に抱き上げなかったことが、かえって早く慣れることにつながったと考えられます。
ここで一つ注意したいのは、慣れていないだけなのか、体調不良のサインなのかが外からは見分けにくいという点です。食欲がない、ぐったりしている、といった様子が数日続く場合は、環境への戸惑いだけで片付けずに動物病院に相談したほうが安心です。慣れの個人差と体調の問題を同じ枠で考えないことが、見落としを防ぐポイントになります。

